これまで気にしたこともなかったのに、うつ病を患ってから、過敏になってしまった言葉があります。
それは、「甘え」という言葉です。
今回は、うつ病と「甘え」の関係についてお話しさせていただければと思います。
目次
うつ病と「甘え」の違い
「甘え」という言葉を聞いて、ドキッとするうつ病患者さんは多いのではないでしょうか?
私も冒頭のとおり、うつ病を患ってから、「甘え」という言葉に敏感になりました。
誰も責めていないのに、どこかで見聞きした「うつ病は甘え」という言説に勝手に傷ついたり、知人の何気ない言葉に「甘え」を糾弾されているような気分になったりしました。
また、自分の現状を病気ではなく「甘え」のせいだと思って自分を責めてしまいがちでした。
うつ病が酷かったころの私は、以下のような状態でした。
会社を休む
1日中横になっている
身の回りのこともできない
そして、うつ病の診断が出ているにもかかわらず、このような状態を「甘え」によるものだと混同して考える癖から抜け出せずにいました。
でも、単なる甘えとうつ病には、違いがあります。
うつ病には、
抑うつ気分
興味・喜びの著しい減退
著しい体重の増減
睡眠障害
焦燥感
疲労感
自分に対する無価値感
集中力の欠如
死について繰り返し考える
などの症状があります。(参考:DSM-5)
これらの症状によって、生活に支障をきたし、仕事を休まざるを得なくなっているのです。
つまり、本当は「ちゃんとやりたい」という意思があるにも関わらず、できなくなっている状態です。
単なる「甘え」からサボっている人は、上記のような症状がなく、また、「ちゃんとやりたい」という意思もありません。
むしろ、「やりたくない、楽をしたい」という気持ちを抱いているのが「甘え」と言えるでしょう。
うつ病と「甘え」が混同されやすい理由
上記のような違いがあるのに、どうしてうつ病は「甘え」であると混同されやすいのでしょうか?
それには、以下のような理由が考えられます。
<外部的理由1>客観的にわかりにくい病気だから
怪我や身体疾患であれば、見た目や数値等にわかりやすく表れます。
でも、心の病気は、単純に目に見えるものではありません。
また、うつ病になる人は、真面目で、周囲との人との関係を重んじる性格の人が多いことから、苦しんでいる姿を見せないようにしていることもあるでしょう。
その結果、本人の苦しみが伝わらず、理解されないということが考えられます。
<外部的理由2>誰しも休みたい、サボりたいという気持ちがあるから
人間、誰しも楽をしたい気持ちはあります。
できることなら仕事をしたくないと思う人も多いでしょう。
そんな人たちが、うつ病で仕事を休み、リハビリのために「のんきに(というように見えるだけですが)」散歩や趣味をしている姿を目にしてしまったら、嫉妬の対象になりえます。
うつ病で苦しんでいる人からしたらとんでもないことですが、こういった一面もあるでしょう。
<内部的理由1>真面目で一途な性格の人が多いから
うつ病になる人は、自分に厳しく、真面目で一途な性格の人が多いと言われています。
自分に「甘え」や「サボり」や「ズル」を許さない性格ゆえに、「甘えのように見える行為」にも過剰反応してしまいます。
以前当たり前のようにできていたことができなくなったことを情けなく感じ、それを「甘え」だととらえてしまうことが考えられます。
<内部的理由2>病気だと認めたくない気持ちがあるから
うつ病への偏見は少なくなってきたとはいえ、未だに、恥ずかしい病気だと感じる人は一定数います。
そのような人たちは、自分がうつ病であるということを否認したい気持ちになるでしょう。
病気を認めなければ、結果として、起きている事象は、自分の性格、根性のなさ、「甘え」によるものだと帰結してしまうことが考えられます。
甘えられなかった結果のうつ病
上記でも触れましたが、うつ病になる人は、真面目でがんばり屋な人が多いと言われています。
周囲に助けを求めることなく、自分ならまだできると思い込んで突き進み、最終的に心が折れてしまい、結果としてうつ病を発症してしまう。
私もこのパターンでした。
つまり、うつ病は、「甘え」によるものどころか、むしろ、上手に「甘えられずに」がんばりすぎた結果と言えるかもしれません。
しかし、この構造を理解せず、「挫折」したのは、自分の「心の弱さ」のせいだとか、「甘え」のせいだとか、「怠け」だとか思ってしまい、自分をさらに責め、回復を遅らせてしまうことが多いように思います。
私は、急性期で状態が酷かったころは、主治医の先生に
「今は何も考えずに休むのが仕事です」
と言われましたが、「仕事を休むなんて甘えた奴だ」と自分を責める手をなかなか休めることができずにいました。
そして、やっと徐々に動けるようになってきたころは、
「楽しいと思えることをやっていきましょう」
と言われましたが、「仕事を休んでいるのに楽しいことをする」というのが「甘え」や「サボり」のように感じてしまって、どうしても罪悪感をぬぐい去ることができませんでした。
それでも、主治医の先生が根気強く楽しめる活動をするよう促してくれたことや、家族が献身的に支えてくれたことで、私は「甘える」ことを少しずつ自分に許可できるようになっていきました。
うつ病だからこそ、甘えよう
このような自身の経験を通して、甘え下手でうつ病になってしまったうつ病患者さんは、上手に甘えることを覚えるのが回復の手助けになると考えるようになりました。
甘える対象は様々です。
たとえば、以下のようなものがあります。
周囲の人
家族が家事をしてくれるのなら、お願いしましょう。
恋人が寄り添ってくれるのなら、肩を預けましょう。
友人が助け船を出してくれるのなら、乗っかってみましょう。
使える制度
仕事の負担の軽減措置ができないか、聞いてみましょう。
休職の制度があれば、壊れる前に使ってみましょう。
傷病手当金などの制度があるのなら、頼りましょう。
自分自身
インナーチャイルド(自分の中の子供の部分)に「甘えてもいいんだよ」と許可しましょう。
自分にゆっくり休むことを許可しましょう。
動けるようになってきたら、趣味などを楽しむことも許可しましょう。
うつ病闘病中は、「ちゃんとしなくちゃ」と肩肘を張らなくていいし、がんばりすぎる必要は全くないのです。
自分が「甘え下手」であるということを自覚して、適切な「甘え方」を覚えていくことは、回復の手立てになるはずです。
まとめ
うつ病は様々な症状を伴い、単なる「甘え」とは異なる。
それでも、うつ病と「甘え」を混同してしまうことはあり得る。
しかし、甘えられなかったからこそ、うつ病になってしまうケースは多い。
うつ病になったら、むしろ、適切に甘えるべき!
これらの考えを身につけることで、私は少しずつ元気を取り戻していきました。
自分を責める癖は完全には払拭できていませんが、「甘え」を許してくれる周囲の人たちや環境に感謝して、差し伸べられた手にはすがり、近い将来恩返しができるレベルに回復したいと思っています。
うつ病で苦しんでいるみなさん。
甘えからそうなったのではありません。
むしろ、甘えずにがんばりすぎた結果なのです。
闘病中、甘えられるときは、存分に甘えましょう。
そうすることで、少しずつ寛解への道が拓けてくるはずです。